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29話 皇女の溺愛、ユウヤの困惑とミリアの覚悟

Author: みみっく
last update Huling Na-update: 2025-07-10 07:00:33

 国王に深々と頭を下げられて――正直、気まずい。  ミリアが先に歩いて行ったのを見計らって、俺はこっそりと王様に小声で話しかけた。

「……あの、王様。そんなに簡単に、国民や兵士の前で平民に頭を下げちゃって大丈夫なんですか?」

 俺の問いに、王様は少しだけ肩をすくめて、呆れたように答えた。

「いえ……ユウヤ様のことを、平民だと思っている者などおりませんよ。  ミリア皇女殿下を宥め、名前で呼び、キスをし、頭を撫でる――そんなこと、普通の平民どころか、貴族や王族でも到底できません。  むしろ、皆が知っているのです。ユウヤ様は“特別な存在”だと」

 ……いやいや、そんな大げさな。

 褒めたり慰めたりする時に、頭を撫でるくらい普通じゃないの?  可愛いからつい撫でたくなるし、別に悪気があるわけでもないし。

「え? 王族の人でも、頭を撫でたりできないの?」

「はい。できませんね」

 王様は真顔で即答した。

「ミリア皇女殿下がまだ幼い頃、宮殿の廊下で遊んでいた際のことです。  ある国の王が、通りかかった際に“邪魔だ”と腕を軽く掴んで廊下の端に寄せたのですが……  その瞬間、ミリア殿下は大泣きされましてね」

 王様はそこで一度、言葉を切った。

「……それを聞いた皇帝陛下が激怒なされ、即座にその国に攻め込み、王を討ち取りました。  以来、誰もが恐れてミリア皇女殿下に触れることはなくなりました。  これは噂話ではなく、れっきとした実話です」

 ……俺は、凍りついた。

 は? 娘を泣かせただけで、国王の首が飛んだの?  いやいや、確かに腕を掴んで退けるのはどうかと思うけど……避けて通ればよかったんじゃないの?  ていうか俺、泣かせてはいないけど――キスとか、抱きしめたりとか、普通にしてるけど……?

 ……ヤバすぎるだろ、俺。

 泣かせてはいない。うん、そこは大事。  でも、今さらながら背筋が寒くなってきた。

「はい? 俺って……ヤバくない?」

「いえ……ミリア皇女殿下のお気に入りの方なので大丈夫かと」

 王様は、どこか諦めたように言った。

「お気に入りだと大丈夫なのですか?」

「はい……なんと言いますか……皇帝陛下はミリア殿下を溺愛しているので、ミリア殿下の言う事は皇帝陛下も従うそうです」

「はぁ……そうですか」

 俺はただため息をつくしかなかった。先に行っていたミリアが戻ってきた。

「ユウヤ様!遅いですわよ……あら?顔色が悪いですわよ……誰か!医者をよこしなさい!」

「はい!直ちに」

 近くにいた兵士が反応して返事をして呼びに行った。

「おいおい……俺は薬屋だぞ?」

「あ!失礼をしました……大丈夫なのですか?」

 ミリアは慌てて俺の顔を覗き込んだ。

「俺……ミリアのお父さんに殺されるんじゃないか? っていうか……ミリアに恐怖を覚えたんだけど」

「はい? 恐怖ですか? 何を仰っているのですか? 何を聞いたのか存じませんが大丈夫ですわ。お父様は、わたしを大切にしてくれていますし」

 ミリアは首を傾げた。

「要は娘を溺愛しているんだろ?」

「まあ……そうなのですかね……?」

 ミリアは可愛らしく小首を傾げた。その仕草は、どこかあどけなさを残しながらも、秘めたる決意を感じさせた。

「溺愛をしている娘に平民の男と仲良く一緒に居たら……消されると思うけど?」

 俺の言葉に、ミリアはハッと顔を上げ、きゅっと唇を引き結んだ。その大きな瞳は、一瞬不安に揺らぐかと思いきや、次の瞬間には強い光を宿し、俺を真っ直ぐに見据えた。

「大丈夫ですわ! そんな事をされたら、わたしも死にますから!」

 ミリアはか細い肩を震わせながらも、その言葉には一切の迷いがなかった。必死に、だが断固とした口調で言い放つ彼女の姿は、可憐さの中に宿る並々ならぬ覚悟を示していた。

「は? いやいや……死ぬなって!」

 俺は慌てて止めた。

「それに命を助けられた事はお父様にお話を致しましたし……命を助けられて、その方と生涯を共にしたい。結婚をすると、ちゃんとお父様にお伝えましたわ」

「それで?」

「激怒しましたが命の恩人ですし。お父様が手出しをすれば、わたしは自害すると言うと認めてくれました」

 はぁ……やっぱり激怒したのか……溺愛してる娘だし当然、激怒するよな。

「それって……認めてくれてるのかな?会ったら睨まれて口も聞いてもらえない感じじゃないかな……」

「そんな無礼はお父様でも許しません!」

 ミリアは力強く言った。

「それは心強いけど大丈夫なのかな……」

 国王に挨拶をして王国を出た。

♢馬車での会話

 馬車に乗ると、さっそく笑顔のミリアが話しかけてきた。

「ユウヤ様……どうぞ……♡」

 そう言うと、恥ずかしそうに膝をアピールしてきたので、素直に膝枕をして寝転んだ。

「ありがと……ミリア」

「はいっ♪」

 ミリアは嬉しそうに返事をした。こうしてるとスゴく可愛いんだけどなぁ……火が付くと危なくて怖いんだよな。

「ミリアは俺が命を助けたから婚約してるんだよな?」

「そうなのですかね……?」

 ミリアはまた、可愛らしく小首を傾げて、美しい青い瞳でじっと俺を見つめてきた。  その視線はまっすぐで、どこか無邪気で――けれど、逃げ場のないほど真剣だった。

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